中学生のときのことだ。夜10時すぎ、私は母と、テレビで映画を観ていた。「日本沈没」という古い映画で渡瀬恒彦が出ていたと思う。
クライマックスの頃、ガチャ、と鍵を開けて父が帰ってきた。大きな音をたててドアを閉め、部屋に入るなり、母を怒鳴りつけた。
「おい、なぜ必要なところにこれを揃えておかないんだ」
手に、どっしりしたデスク用のセロテープカッターを持っている。
「カッターなしにセロテープを使うのは非効率だぞ。お前は仕事というものをわかっとらん。ケチるな。明日すぐテープカッターを大量に買ってこい」
映画の音声が全く聞こえなくなり、
「ちょっと、うるさいんだけど」
と言った瞬間である、父は私の頬を強く叩いた。
「お前に何がわかる。経営に口を出すな」
と言って私を睨みつけると、テープカッターをこたつの上に投げ出し、足音も荒く洗面所に行ってしまった。
びっくりしたのと痛いのと、あまりに理不尽なので涙が出てきた。叩くことないじゃない…と涙声でいうと母がなすすべもなく、あ〜痛かったろ、と言った。
というわけで日本沈没のエンディングがどうなったのか私は知らない。