SNSののどかなフィールド

けらえいこさんの、あたしンちのベスト版を読みおわり、続けてほかのも読みたくなって、けらさんの古いエッセイ「セキララ結婚生活」を電子で買って読んだ。

ちょー久しぶりに読んだけれど、やっぱり面白かった。エピソードに出てくるちょっとした女性のキャラがワンレンボディコンだったりして、時の流れを感じる(大学の後期試験の帰り道、「絶対落ちた…」という重い確信を抱きながら駅の本屋で立ち読みしたのが、けらさんの「いっしょにスーパー」であった。落ち込んでいたのに、そんなの関係なくどんどん読んでしまい、なんだこの面白い漫画は!と思った)。

この中には短編エッセイがいくつも収録されているのだが、終わりの方に「結婚の理由」という話がある。

けらさんの夫さんが深夜、ビデオを返しにいき、黄色いレインコートを翻してチャリを飛ばしていると、酔っ払ったおじさん二人に「黄金バットさ〜ん」と呼ばれた。家についてから、パートナーのけらさんに「聞いてよ、今さ…」と笑いながら話す。でも、もし、家に誰もいなかったらどうだろう。こんな話は翌日思い出して誰かに話すほどではないから、自分一人がクスッと笑って終わりだろう。

ほんのちょっとした出来事を共有して笑いあえることは楽しい、それが結婚の理由だ、という話だった。最後の1コマがすごく小さくて「まーそれだけのことなんですケド…」と照れたように書いてあるのもめっちゃよかった。

この話は始めて読んだときも印象に残っていてよく覚えている。そっかーこれが結婚の良さかーとか思ったものの、結局私は独身のままである。

今は親にちょっとした出来事を話して笑ったりしてるが、いずれ両親はなくなり一人暮らしになるだろう。そしたら、ちょっとした出来事ってSNSで共有して満足するしかなくなるのかなと思う。でもSNSってたまに、なんやそれみたいなリプがつく。

上の例だったら

「レインコートということは小雨が降っていたのでしょうか。そんななか自転車をとばすのは危ないです」

とか

黄金バットは〇〇年から□□年に放映されており、再放送から考えてもおじさん達が観ていた可能性は低く、この話は作り話ですね」

なんていうリプがついたら、私はなんだかがっかりして、その後は小話の共有をしたくなくなるだろう。

そんなわけで今から10年、20年後、私がもっと年を取ったときに、SNSに、まだのどかなフィールドが残っていることを真面目に願っている。