「デッドライン」面白い

哲学者の書いた小説「オーバーヒート」に続いて「デッドライン」を読んでいる。すごく面白い。

めちゃくちゃ頭の良い学生のありふれた生活を描いているのだけど、主人公は、性指向を中心に、周囲に小さな違和をしょっちゅう感じている。

時折現れる、修士論文の指導教授との対話が好きだ。博学でありながらすべてを語らず、しかし適切なヒントを渡してくれる先生。主人公は手がかりをしっかりつかむ。ゼミの1シーンではなくて、時を止めて神と対話してるように見えてくる。

学生生活を読み進めるうち、ゼミで語った疑問が日常生活にもしみ出してゆくのがわかる。電話で受けた見知らぬ相手からの拒絶、予期せぬ客、友人の映画のために作った音楽、深夜に親友とでかけるドライブ、発展場のマジックミラーと自分の服や携帯電話の色、などなどが、主人公の心のうちを暗示して、暗い夜と明るい木漏れ日のように交互に私を照らす。日常生活もまた、ヒントに溢れている。

私、こういうふうに自分の学生生活を書けるかなぁ書けないよなぁと振り返ってしまった。主人公は世界と自分の違和について考え続けていた。彼の一見ありふれた学生生活には、「自分と世界」を見つめるひとつの視線があった。だから、小説になるのだと思う。

私の大学生活ってなにも考えていなかった。自分の服や携帯電話の色の選び方を自覚的に掘り下げたこともない。なるべく批判しないようにしていて、ぼんやりした学生で、「ぼーっとしてると楽」と思っていた。実際どんなふうに時間を使っていたのかもよく思い出せない。

それとも、奥底ではなにかを考えていたのかしら。考えていたと思いたい。「怠けていて、どうしようもない学生だった」「漫画だけ読んでた」ということ以外になにかなかったんか。たどたどしくても何かを書いていれば昔のできごとの意味も見つけられるかしらと思う。

小説の続きを読もーっと。