男装の麗人的書店員さん

朝ドラの主人公の同級生に、女性だけれど常に男もののスーツを着て、髪もピッタリなでつけ、まるで男装の麗人のような人物がいる。

主人公はこの人に「素敵、宝塚みたい!」と声をかけて怒鳴られる。彼女は明治時代、女性が虐げられていることに強い怒りを抱き、男性に負けたくないと願い、男の格好をして法学部にいるのであった。

この人に、まじでそっくりな人を知っている。いつも通っている本屋の店員さんである。背が高く、細面でキリッとして短髪。その書店の制服は男女共通だが、その人が着ていると男装に見える。シャツにベストにパンツ、誂えたようにぴったりだ。

表情は常に一定で、口元が少しほころんだり、目元が笑みを浮かべたり、全く見たことがない。接客において敬語を絶対に崩さず、余計なことを言わない。レジが混んでいようがすいていようが、レジ打ちとカバー掛けの所作に無駄はなく、常に最短スピード。まれにあまりにも混んでるとすこし声が大きくなるけど…。

私はよくネットを通じてこの書店で本を取り寄せる。一度、この人に「本の取り寄せをしたのですが」と言って自分の名前を伝えたあと、「本のタイトルをお願いします」とメモをかまえられて、はたとタイトルを忘れてしまったことがある。「あ、なんだっけ」と言ったら、彼女は1秒待ってため息をついたあと、すぐレジ裏のスペースに消えた。ほんっとにニコリともせずに…。

注文者の名前だけでも本を取ってきてくれたけど、以来、本のタイトルのスクショ画面を「絶対に」用意することにしている。恐いもん。

先週、また本を取り寄せて、スクショ画面を見せながら、「〇〇と申しますが、この本を取り寄せたんですが」と声をかけた。彼女はレジで何か事務作業をしていたのを中断して、本のタイトルのメモを取ってくれた。「…の…」タイトルを口の中で唱えつつ大きな字でメモしてくれる間、まじまじと顔を見ることができた。珍しくメガネをかけている。細いプラスチックでブラウンの、少し丸みを帯びた四角い縁。おしゃれなもの。

事務作業の間かけるってことは、老眼鏡なのかなぁ。若い気もするけど、年齢私と同じくらいなのかもしれない。

またしても、一切の愛想なく、そして一切の乱れなくお会計、カバー掛けをしてくれたけれど、彼女の無表情には、けして能面のような硬さは感じないんだよな。それこそ、朝ドラに出てくるキャラクターのように、この人はなにかに耐えているのか、なにかを押し殺しているのかとつい想像したくなるんだよな。

なんて、本屋の客にんなこと想像されてたら店員さんは恐いよな。でもあの店員さんが急にいなくなったりしませんように、と思う今日このごろなのだった。

 

追伸

明治じゃないじゃん 昭和初期じゃん…