筆ペン

 コロナ禍のちょっと前に、とあるエッセイ(確か若松英輔さん)を読み、好きな言葉を抜書きすると良い、心にも良いし、文章の練習にもなる、的なことが書いてあるのをみつけて、へーと思った。

 その後、コロナ禍に入り、生活の制限が厳しくなり、コーヒー屋も閉まり、本にも飽きて、土手の道を歩くしかなかったころ、上の言葉を思い出して、一時期、抜書きしていた。

 好きな本に付箋を貼り、小さい手帳に1行から3行、ぽつぽつと写し書きする。いつも仕事で使ってたジェットストリームボールペンを使おうとしたら、なぜか力が入らず、弱々しいカシャカシャした文字になる。しかたなく、絵でよく使われる細いサインペンか、筆ペンで写し書きするようにした。

 使ってみて良かったのは筆ペンである。

 まぁ筆ペンだと普通に下手だし時間がかかる。線がボールペンより太いから、文字はどうしても大きくなるし、トメ、はらいを意識しながら書くと丁寧にならざるを得ない。

 でも、書いた字が気に入らなくて書き直したり、レイアウトを変えて書いたり、線の込み入った漢字を取り出して練習したりするうちに、なぜか気が晴れた。書き終えたページも、練習の字や書き損じの字も含めて、全体的に気に入った。下手な字なのにそれでも満足で、スケッチブックみたいだと思った。きっと絵を描く人はこういう気持ちになりながら描いているんじゃないかと思ったりした。

 

そのノートはもう書いていないが、筆ペンは今でもたまに、メモを書くとき使ったりする。