成仏シリーズ(5)往復ビンタ

高1の夏休みのことだ。

休みは家でごろごろしていた。そこへ昼ごはんのため父が帰宅してきて、逆鱗に触れてしまった。

部屋を出ようとすると呼び止められた。勉強が本分だ、しっかりしろ、というようなことを言われ、私も生意気だったので大声で言い返した。すると、言い終わる前に父が、立っていた私の頬を勢いよく二発、平手打ちした。更に言い返すともう二発打たれた。

父の手が離れるや両方の鼻の穴から勢いよくターーッと血がふき出てきて、ぽたぽた床に落ちる。今わたし、漫画みたいな顔になってる…と思う。

危険を感じてとっさに芝居のようにふるまい、そうだよね勉強してたらお父さんも叩かないよね、簡単なことなのに、とかなんとか言ってカラカラと必死に笑ってみせた。

すると、驚いたことに父は私の嘘くさいセリフをそのまま受け取り、子供のようににっこりとしたのである。「わかったのか。うん」と言い、そして、鼻歌の聞こえそうな足取りで出口に向かい、ドアの手前で振り返ると「仕事に行ってくる」ともう一度にっこりして出ていった。

父が見えなくなってから、脱力して座り込んだ。手がブルブルしていた。母が手当をしてくれて、私はしばらく横になったと思う。往復ビンタは初めてだと思いながら天井を見ていた。