成仏シリーズ(2)オマエそれでいいのか

私と妹は物心つく前にスイミングスクールに放り込まれた。私3才、妹1才である。

一番下の級では、生徒はピンク色の水泳帽をかぶることになっていた。小学生のお兄さんお姉さんはどんどん進級し帽子の色が変わっていく。が、私と妹は何年も、ピンクのままであった。ピンク帽は、次第に色抜けして白っぽくなってしまい周りから「白ピンク」とからかわれる。妹も私も、ここからどうやれば抜け出せるのかわからず、プールの端っこでひたすらバタ足し続けた。

級が上がっても、やる気がなく、なかなか上達しない私を、コーチたちはもてあました。コーチに頭を叩かれたり、動きを間違って足を蹴られたり、5枚重ねのビート板を投げつけられたりした。

小4くらいに、意を決して母に言った。水泳をやめたい。毎週日曜日を水泳でつぶすのはもう嫌だ。クロールは泳げるし、いいでしょ?母は「お父さんに聞いてみる」と言う。その日の夜、父が重々しい調子で声をかけてきた。

「おい。オマエ水泳やめたいのか。オマエ、ほんっと〜にそれでいいのか。中途半端だぞ。最後までやり遂げなくていいのか」

そういったあと、こちらをジーーッと見て何も言わない。十秒後、私は「やめないで続ける」と言ってしまった。

父は「うん、そうだな」と簡単に言って、その話はおしまいになった。

なぜ続けると言ってしまったのか。私は典型的な長女であり、大人の気持ちを読む子供である。父はそれをわかっており、私が「続ける」と言いだすように仕向けた。やめることは「中途半端」であり、やり遂げることが立派だと暗に示すことによって。

いやいやながら通ったスイミングだが、続けたことで「やっぱりよかった」…といういい話は一切ないまま中1で退会し、以来、学校以外で泳いだことは一度もない。

さて、大人になった私は、とある推理を父にぶつけてみた。

「私達をスイミングに入れたのって、日曜日にどこか遊びにつれてけ、って言わせないため?」

「オマエ、よくわかったな!そのとおりだ!はっはっは」

全然面白くないよ…私の日曜日を返せ。