ふやけた紙の錯覚

文庫本を読んでいたとき、表紙が水濡れしてる気がして、本を閉じて確認した。

…大丈夫だ。

読書にもどってしばし後、やーっぱり、なーんか、表紙が水でふやけてるような気がする。お茶がついたか?でも、見るとぬれてない。

あれ、人差し指の腹が、虫に刺されて腫れている。ああそうか…、それでのみ込めた。

私は文庫本の表紙のはじを親指で持ち、背表紙に中指を引っ掛け、表紙をしならせて軽く人差し指を添えていた。

この態勢だと、人差し指は付け根と指先しか表紙に触れない。指の大部分は表紙からすこし離れている。

しかし、その日は指が腫れたため、腹が表紙に触れた。それを私の脳は、指のふくれでなく、表紙のふくれと認識したんである。

表紙が手前に膨らんでると感じるだけならまだわかる。「濡れてふやけている」と感じたのが驚きだった。手前にふくらんだ紙はイコール水を吸ってふやけた紙だ、と脳が決めている。

指の腫れに気づいた瞬間、錯覚は消え失せ、表紙は乾いてしまった。本を持ち直して、もう一度水濡れの感覚を再現しようとしたができなかった。

(この話、何人かに話したが、みんな「ふ〜ん」という反応でござった。つまんない話だろうか…いや、つまんなくない!!と思って書きました。)